本研究は菌類の自家不和合性を物質レベルで解明しようとする初めての試みである。疫病菌(Phytophthora)は有性生殖においでは造卵器と造精器の接合により卵胞子を形成する。この過程において自家生殖による卵胞子形成は起こらずA1とA2という異形株間でのみ有性生殖が起こるが、異形株の分泌するホルモンにより性的不和合性が解除される。本研究はA1株が分泌しA2株の不和合性を解除する微量の生理活性物質であるα1ホルモンを純粋に取り出すことを当初の目的として設定した。 A1株が生産するα1ホルモンの生産量が最も高い培養法を検討したが、液体培養では活性物質の生産量は非常に低いことが判明した。そこで寒天上で培養したA1株をそのままアセトンに浸漬し抽出液を得た。この抽出物についてA2株で生物検定を行いながら活性画分をシリカゲルとODSを担体として用いたカラムクロマトグラフィーで精製し、最終的にODSカラムを用いたHPLCにより10リットル(シャーレ500枚分)の培地から、約0.5mgの活性物質を単離する事に成功した。本物質は、生物検定により約1μgで活性を示した。本物質のHNMRスペクトルを測定したところほぼ純粋であると思われたが、微量であったために2次元NMRが測定できず化学構造の決定には至らなかった。今後は更に大量の抽出材料から精製を進める必要がある。
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