ヒトのゲノムには少なくとも10個のトリプシン類似遺伝子がコードされている(サザン解析の結果)。しかし、酵素タンパク質レペルでその諸性質が解析されたのはこのうち2つだけである(トリプシン1型、2型と呼ばれ、等電点以外の性質に差は見られない)。そこで、未発見のトリプシン・アイソフォームを同定することを目的に、ヒトの膵臓cDNAライブラリーを作成、既知トリプシン配列をプローブにしてスクリーニングした。得られたポジティブクローンの大半は既知のものであったが、そのなかにわずかながら未知のクローンを発見し、これをメソトリプシンと命名し(等電点が1型と2型の中間(メソ)位にあることから)、報告した。メソトリプシンは、1型、2型と比べるとアミノ酸レベルで90%以上の相同性を示したが、活性中心付近のアミノ酸残基に特徴的な置換が見られた。そこで、メソトリプシンを大腸菌で発現させ、組み換え体タンパクを調製、その酵素学的諸性状を、既知トリプシンと比較した。その結果、前駆体(トリプシノゲン)からの活性化やKm、Kcatなどの諸パラメータにはほとんど差が見られないにも関わらず、大豆トリプシンインヒビターやアプロチニン(牛膵臓由来クニッツ型トリプシン阻害夕ンパク)に対して著明な抵抗性を示すことが判明した。
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