海洋細菌、Vibrio alginolygicusは2種類のべん毛を持つ。恒に発現されている一本の極毛、さらに菌が固体表面上などに置かれた時にのみ発現する多数の側毛である。徘徊運動とは、この側毛によって菌が固体の上を動き回ることを称する。この徘徊運動の意義は、有機物の分解、共生系の確立、などいろいろなものが考えられるが、はっきりしていない。本研究はこの徘徊運動の生態的意義を見出すことを最終的な目的としている。 V.alginolyticusが徘徊運動を始めるまでには、菌の水の中での遊泳、固体表面への近接、固体への付着、側べん毛の生合成などのステップがある。特定の固体表面上で徘徊する菌の系を作りだすには、これらのステップの理解が必要である。そこで、平成11年度は、V.alginolyticusが固体表面に接近するプロセスを物理化学的に記述することを目的とした。 この接近は従来はいわゆるDLVO理論によって説明されてきた。つまり、菌体をコロイド粒子として扱い、固体と菌体表面との電気化学的な相互作用を解析する方法である。本研究では、菌体の近接が実際には従来のDLVO理論とは逸脱すること、これは菌体表面の生体高分子層の存在を想定してこなかったためであることを明らかにした。さらに従来とは異なる理論から菌体の近接の新たなモデルを作り出した。この結果、徘徊の前段階の様相が明らかになり、近接と付着を定量的かつ理論的に扱うことが可能になった。これらの結果を基にして、徘徊の実験系が設定された。
|