内臓を含めて熟成を利用した水産食品として、カタクチイワシやハタハタを原料とした魚醤油、カツオやイカの塩辛がある。一方、魚類の死後、内在性のプロテアーゼが働き、タンパク質が分解して遊離アミノ酸やペプチドなどが生成し、呈味成分が増大することが知られているが、内臓をも含めて製造する水産発酵食品の熟成過程では、必ずしも魚類に内在するプロテアーゼのみが働くとは考えられない。そこで本研究は、カタクチイワシを主対象に、その腸管および腸内細菌を含む腸内容物から新規プロテアーゼ遺伝子を単離して、魚類の高度利用の資することを目的とした。 まず、カタクチイワシの活魚を入手し、腸管およびその内容物を分離せず常法によりmRNAを単離し、市販のキットを用いてcDNAを合成した。さらにこのcDNAをλZAPIIファージベクターに組み込み、ライブラリーを構築した。このcDNAライブラリーにつき、ゼラチン・フィルムやカゼインをコーティングしたメンブレインをレプリカと反応させ、プロテアーゼをスクリーニングした。しかしながら、ファージの宿主である大腸菌由来のプロテアーゼの影響のため、カタクチイワシの腸内細菌由来のプロテアーゼをクローニングすることはできなかった。 そこで新たに、カタクチイワシ幽門垂からmRNAを調製してfirst strand DNAを合成した。さらに、既報のデータを参照しつつプライマーを設計し、PCRによりトリプシノーゲンの2種類のアイソフォームをクローン化した。一次構造を演繹したところ、カタクチイワシのトリプシンの構造は他動物種由来のものと高い相同性を示し、本酵素の種々の特徴をよく保存していることが明らかとなった。
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