研究概要 |
近年,環境ホルモン等の汚染による出生児のアトピーを含めた体質異常が社会的問題となっている.これは,妊娠中における母体内環境と妊婦をとりまく環境との相互作用によって生じていると考えられているが,その因果関係は全く不明である. 血液脳関門(BBB)は選択的物質透過性を有し,胎児の正常な発達に重要な役割を果たしている.母体環境と脳を含めた胎児発達の関連は密接であるにもかかわらず,遺伝的奇形を除く異常児の発生に関する研究はほとんど進展していない.このような社会的背景において,母体環境とBBBの形成とその制御機構の解明に着手することは,まさに"芽生え的研究"に相当するものと判断した. そこで本研究は,プロテアーゼカスケードの妊娠時期特異的な活性化機構とその生理作用を明らかにするために,以下の2点に焦点を絞ることとした. (1)時期特異的な活性化機構の解明:交配パターンの組み合わせによって,プロテアーゼカスケードの活性化に相違が生ずるメカニズムを明らかにした. (2)胎盤及び胎児脳の機能形成の解析:胎盤機能とIUGRを伴う胎児脳のBBBの形成過程を明らかにする為に,現在実験系の確立を試みているところである. 時期特異的な母体環境の劇的な変動と,その結果生じる胎児への影響を分子レベルで理解しようとする点が特色である.また,申請者が確立したトランスジェニックマウスは,妊娠時に特異的に高血圧を発生する極めて独創的な実験系である.本研究は,単に学問的な問題解決に止まらず,妊娠中の母体・胎児の病態生理機構を明らかにする基盤的研究に発展する可能性を秘めていることが考えられる.
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