各種の生物現象で最も重要な役割をしている細胞のプログラミング死(アポプトーシス)を起こさせる機構を分子レベルで解明するのが本研究の目的である。アポプトーシス過程には色々の経路が知られているが、多くの経路に共通な最終段階はカスパーゼ-3の活性化である。我々は今日迄に全く知られていなかったカスパーゼ-3の活性化酵素を肝リソゾーム内に発見した。此の酵素はリソアポプターゼ(Lysoapoptase)と名付けられた新酵素である。分子量が7万のシステインプロテアーゼと考えられ、Caで強く活性化される。此の酵素はトリプシン阻害剤では阻害されず、カテプシンLの阻害剤で阻害される。此のリソアポプターゼはカテプシンLにより活性化されるので、リソゾーム内に(カテプシンL)→(プロアポプターゼ)→(活性アポプターゼ)というカスケードを作る調節機構があるものと考えている。リソアポプターゼは加齢により増加し、胎児の肝には極めて少ししか発現していない。出生後、加齢と共に増加し、老ラットでは新生ラット肝の10倍以上になる。また肝癌細胞にはリソアポプターゼは極めてわずかしか発現していない。逆に、乳腺癌、膀胱癌では非常に強く発現している。従って、新たに発見されたリソアポプターゼは細胞のプログラミング死に重要な役割をしているものと考えられる。
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