下垂体特異的転写因子の核移行の分子機構とその病理学的意義

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11877044
• 研究機関: 東海大学
• 研究代表者: 長村 義之 東海大学, 医学部, 教授 (10100992)
• 研究分担者: 吉村 眞一 東海大学, 医学部, 講師 (30230808)
• キーワード: 下垂体 / 転写因子 / Pit-1 / Green Fluorescent Protein / PKC / 核移行シグナル / GH3

研究概要

我々は下垂体特異的転写因子であるPit-1、Ptx1、Prop1などが核のみでなく細胞質にもかなりの強さで存在することを免疫組織化学的に観察し、これらの転写因子が本来は細胞質に局在し、何らかのシグナルにより核へ移行して下流の遺伝子発現を調節している可能性を考えた。そして、この転写因子の細胞質・核局在比がヒト下垂体腺腫における機能分化に大きな役割を果たしているものと考えた。本年度の研究は1.Pit-1、Ptx1、Prop1などが通常は細胞質にも局在することを免疫組織化学以外の手法で証明すること、2.細胞質に存在する転写因子が核内へ移行するシグナル伝達経路を特定することを目的とした。
最初に検討する転写因子としてはPit-1を選んだ。また、局在動態を生きたままの細胞で観察するために、Pit-1とGreen Fluorescent Protein(GFP-Pit)との融合遺伝子を含む発現ベクターを構築した。得られたベクターを下垂体腺腫に由来するαT3-1、GH3、AtT20の各細胞に各遺伝子導入して細胞内GFP-Pitの局在を共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、αT3-1、GH3、AtT20ともに核および細胞質に蛍光が観察された。加えて、これらの細胞株より分離した細胞質、核分画にGFP-Pitが存在することを免疫ブロット法で確認し、Pit-1が通常は細胞質にも局在することを証明できた。次いで、この核移行のシグナルがどのような経路で伝達されるかを決定するために、PKA、PKC経路を活性化してGFP-Pitの細胞内局在を観察したところ、PKCの活性化試薬であるフォルボールエステルを加えた場合にのみ、GFP-Pitが核に集中することを見出した。このことは、最初のシグナルがPKCを活性化して、Pit-1が核に移行し、下流の遺伝子発現をup-regulateしていることを示していた。

研究成果

• [文献書誌] Sugiyama M, Osamura RY, et al: "Neurohypophyseal germinoma with prolactinoma"N J Neurosurg.. 90. 170-170 (1999)
• [文献書誌] Sanno N, Osamura RY, et al: "Retinoid X receptors (RXRs) mRNA expression in human pituitary adenomas"Endocrin Pathology. 10(1). 73-83 (1999)
• [文献書誌] Osamura RY, et al: "Pit-1 positive -subunit positive nonfunctioning human pituitary adenomas; A differentiated GH cell lineage?"Pituitary. 1. 269-271 (1999)
• [文献書誌] Tahara S, Osamura RY, et al: "Expression of Rab3, a Ras-Related GTP-Binding protein, in human nontumorous pituitaries and pituitary"Modern Pathology. 12(6). 627-634 (1999)
• [文献書誌] Matsuno A, Osamura RY, et al: "Pituitary somatotroph adenoma producint growth hormone (GH) Releasing hormone(GHRH)with an elevated plasima GHRH concentration"T J Clinical Endocrinology & metabolism. 84(9). 3241-3247 (1999)
• [文献書誌] Osamura RY: "Machanism of hormone production in pituitary cells and pituitary neoplasms; Synergistic actions of transcription factor"Acta Histochem. Cytochm.. 32(2). 107-110 (1999)