研究概要 |
世界中で最も重要な感染症の一つであるマラリアは、マラリア原虫の病原性発現機構と感染宿主の防御機構の両面において不明な点が多い。マラリア原虫が宿主内に侵入すると、宿主内では直ちに様々な感染防御機構が働き始める。これは、寄生体であるマラリア原虫にとって非常なストレスとなり、原虫は熱ショック蛋白質(HSP)と呼ばれる一連の蛋白質群を発現するようになる。HSPは一般に抗原性が高く強力な免疫応答を誘導することが知られている。そこで、マウスマラリア実験モデルにおいて、マラリア原虫感染における各種HSPに対する免疫応答を評価した。 1)マラリア原虫感染マウスの血清を用い、Immunoblot法によりHSP65,70,90に対する特異的抗体の産生を検討した。非感染対照群ではいずれのHSPに対しても特異的抗体の産生は認められなかったが、感染マウス血清中には検討したすべてのHSPに対して抗体が存在した。また、ELISA法により特異的抗体を検討したところ、HSP90に対する抗体は他のHSPに対する抗体より抗体かが高かった。従って、HSP90は宿主内に侵入にたマラリア原虫に強く発現し、また宿主の防御免疫を効果的に誘導する抗原になりうることが示唆された。 2)マラリア原虫のHSP90発現機構を解明するため、試験管内にてマラリア原虫に各種の原虫障害物質を添加し、原虫のHSP90の発現をImmunoblot法にて測定した。その結果、NO発生剤であるSNAP(S-Nitroso-N-acetyl-penicillamine)とH_2O_2はHSP90の発現を誘導することができるが、IFN-γでは誘導できなかった。このことから、原虫は宿主内でNOやH_2O_2等の原虫諸害物質によるストレスによってHSP90を発現していることが示唆された。
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