本研究の目的は、感染性を持ったインフルエンザウイルス粒子の無細胞形成系を確立し、粒子形成機構を明らかにすることにある。研究は、(1)マーカーRNAゲノムの作製、(2)RNP複合体をマトリックスタンパク質M1で包む、(3)エンベロープ材料の調製、(4)エンベロープ材料によるRNP-M1複合体の被覆、の順に展開する。 本年度は、まずマーカーとなるペプチドとしてHIVのV3領域を選択し、これを指令する配列をインフルエンザウイルスNAのストーク部分を指令する領域に組み込んだ組換えRNAを作製した。すでに我々が開発している感染性RNP複合体の再構成系を用いて細胞に導入したところ、組換えRNAゲノムを持ったウイルス粒子が回収された。この組換えウイルスは再感染を繰り返しても安定に保持されており、組換えRNAは再構成ウイルス粒子形成の検定に使用可能と考えられた。M1のRNAおよびRNPに対する結合性を調べたところ、M1はRNAに協同的に結合して粒子内部から調製した複合体と同レベルの高次な複合体を形成した。M1のRNA結合ドメインと高次複合体形成に関与する領域はいずれもM1の91〜110アミノ酸からなる領域と判明した。エンベロープの材料は感染細胞から調製する予定であるが、機能的な膜画分が調整できたか否かを判定する系が必要である。そこで担体上に調製した膜上での試験管内集合系を用いて、M1の膜画分への結合性を検定した。その結果、M1は温度やATPには依存せず、膜に結合することが明かとなった。M1の欠失変異体を用いた解析から、M1の細胞膜への結合には、RNA結合にかかわるドメイン以外の全体の構造保持が重要であることが示唆された。今後は、それぞれの素材を大量に調製し、試験管内でのRNP-M1複合体のエンベロープ材料による被覆を行う予定である。
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