本研究は、感染性を持ったインフルエンザウイルス粒子の無細胞形成系を確立し、粒子形成機構を明らかにするために行った。まずマーカーRNAゲノムを作製するために、マーカーとなるペプチドとしてHIVのV3領域を選択し、これを指令する配列をインフルエンザウイルスNAのストーク部分を指令する領域に組み込んだ組換えRNAを作製した。すでに我々が開発している感染性RNP複合体の再構成系を用いて細胞に導入したところ、組換えRNAグノムを持ったウイルス粒子が回収された。この組換えウイルスは再感染を繰り返しても安定に保持されており、組換えRNAは再構成ウイルス粒子形成の検定に使用可能と考えられた。ついで、組換えM1を調製して、粒子内部から調製したものと同等と考えられるM1-RNP複合体を再構成した。M1の複合体形成に関与する領域は、M1のRNA結合ドメインであるM1の91〜110アミノ酸からなる領域と判明した。エンベロープの材料として感染細胞から調製した膜画分は、M1との結合性を示した。M1の欠失変異体を用いた解析から、M1の膜への結合には、RNA結合にかかわるドメイン以外の全体の構造保持が重要であることが示唆された。以上で、試験管内でのRNP-M1複合体のエンベロープ材料による被覆を行うための基盤はととのった。本研究では、さらに分節ゲノムの集合機構に関わる解析を開始した。試験管内系を用いたゲノムRNAの核外輸送機構を解析している途中で、核から排出されたゲノムRNA分節がすでに集合している可能性に気づいた。 このことにおいて、科研費の本研究としては十分な成果がでた。
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