研究概要 |
最近の研究によれば,ダイオキシン類への暴露に対するsubclinicalな健康影響の評価指標として薬物代謝酵素シトクロムP450(CYP)分子種の内で,特にCYP1B1,CYP1A1の遺伝子発現が注目されている.そこで,本研究では先ず最初に,ヒトリンパ球より得られたDNAを用いて,薬物代謝酵素CYP1A1及びCYP1B1の遺伝子発現量を分子生物学的手法により解析するための基礎的検討を開始した.その結果,CYP分子種のmRNA発現量をRT-PCR法により測定することが可能となった.私どもはこの分析手法を,極微量の2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)を添加したリンパ球の培養系に応用し,TCDD添加量とCYPの遺伝子発現量との関係を解析しようと試みたが,末だ満足すべき結果を得ていない.現在検討中である. 次に,ダイオキシン類への暴露が高いと考えられる廃棄物焼却施設内労働者,及び対照群より,少量の抹消血を採取してリンパ球DNAを調製後,CYP1A1及びCYP1B1のmRNA発現量をRT-PCR法を用いて測定し,両群より得られた測定値を比較したが,今回の対象者では統計的に有意差を認めることは出来なかった.一方,同じ対象者(廃棄物焼却施設内労働者及び対照者)において,TCDD暴露によるDNA損傷の程度を推定するために,リンパ球DNA付加体(adducts)量を32Pポストラベル法により測定して,両測定値を比較したが統計的な有意差は認められなかった. 以上の如く,現時点ではネガティブデータが多いため,論文にまとめるまでには至っていない.次年度の結果を期待したい.
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