研究概要 |
疫学的にfertilityの低下、流産、生下時体重の低下等の影響も懸念されている産業化学物質の有機溶剤スチレンについて、動物実験で生殖と胎児への影響、生後発達、反射機能への影響の解析、これに基づく神経化学的影響を分析し次世代影響の検討を行った。母獣の妊娠6〜20日目まで吸入暴露をスチレン50ppm,300ppmで行った。 栄養状態によるバイアスを避けるためpair feedingの対照群を用いた。離乳まで体重増加、生理的発達、反射について観察を行い、新生仔期、離乳期21日目に各脳部位(前頭葉皮質、線条体、海馬、視床下部、中脳)の脳内アミン、代謝物(serotonin,5-HIAA,DA,DOPAC,HVA,NA)を定量した。 その結果、スチレン暴露母ラットでは体重増加、摂食量、に減少が見られ、新生仔死亡の増加、仔の大脳重量の減少が見られた。また生後発達でも、歯芽萌出、開眼、反射に遅れが観察された。 神経化学的分析では、300ppm曝露群仔ラットがセロトニン、HVAが減少し、離乳時でセロトニンの代謝物5-HIAAの減少が有意であった。5-HIAA/5-HT比では50ppm曝露群でも海馬で代謝速度lこ遅れがみられた。5HTは胎児期から新生仔で濃度も成獣期に比べて高く、脳内アミン類の発達を含めて成長に関与する因子となることから、胎仔の生後発達、反射の遅れにも関与していると思われる。 妊娠中の胎仔脳の発達にとって鋭敏な時期での神経障害作用のある化学物質暴露は仔の生後発達に影響を与える可能性が示唆された。今回の実験では日本のスチレン許容濃度である50ppmを含む、スチレンの生殖毒性、胎仔への影響とそのメカニズムの一端を明らかにした。
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