研究課題/領域番号 |
11877069
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
嶋本 喬 筑波大学, 社会医学系, 教授 (50143178)
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研究分担者 |
熊谷 嘉人 筑波大学, 社会医学系, 助教授 (00250100)
磯 博康 筑波大学, 社会医学系, 助教授 (50223053)
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キーワード | 高血圧 / 頚動脈硬化 / NO / cGMP / 疫学調査 |
研究概要 |
一酸化窒素(NO)は血管内皮細胞より分泌され、高血圧の進展を抑制する因子と考えられている。過去の臨床研究で、重症高血圧者においてNO産生の抑制が報告されているが、軽度の高血圧者も含めた対象でNOと血圧値との関連について調査した疫学研究は少ない。我々は地域住民を対象として、NOのセカンドメッセージャーである24時間尿中のサイクリックGMP(cGMP)排泄量を測定し、血圧値との関連について検討した。その際、生体内の炎症はNO代謝と密接な関係があるため、炎症の指標である血清中のC-反応性蛋白(CRP)を測定し、CRP値が上記の関連に及ぼす影響を併せて検討した。 対象者は、1997〜2000年の茨城県K町と秋田県I町住民検診で24時間蓄尿検査を実施した22〜82歳の男女677人(平均年齢は60歳)である。測定方法はI125-標識したcGMPを用い、radioimmunoassay法で測定した。cGMP排泄量は、尿中クレアチニン値で調整し(クレアチニン1mmol当りの排泄量を算出)、血圧値及び高血圧関連因子との関連を分析した。血清CRPは免疫比濁法にて測定した。 cGMPの年齢調整排泄量は臓器障害を有する重度高血圧者で83nmol/mmolであり、軽度および中等度高血圧者の111nmol/mmolに比べて有意に低く、正常血圧者の93nmol/mmolに比べても低い傾向を示した。cGMP排泄量とCRPとの関連は認められず、また、CRPはcGMP排泄量と高血圧との関連に影響を与えなかった。上記の一部の対象者102人について頚動脈エコー検査を行い、cGMPの排泄量と頚動脈硬化との関連を検討したところ、軽度の頚動脈硬化有りの群でcGMPの排泄量が高い傾向が見られた。以上より高血圧、動脈硬化の初期の段階では脈圧や血流によるずり応力の増加によって内皮細胞由来のNO合成酵素(eNOS)が活性化され、NOの産生が増加して、尿中cGMP排泄量が増加したものと推察される。更に高血圧、動脈硬化が進んだ段階では血圧上昇による血管内皮障害が起こるために、血管内皮細胞由来のNO産生が低下し、細胞内のcGMP濃度が低下すると推察される。したがって、一酸化窒素(NO)は高血圧、動脈硬化の進展の生体マーカーとして有用と考えられる。
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