E1B55K欠失アデノウイルスによるヒト食道扁平上皮癌と肺癌に対する有効性について検討を行った。 1.p53に変異のある培養ヒト食道扁平上皮癌細胞TT、TTnおよびEC-GI-10にAxE1AdBを感染させ7日間培養後もTTおよびTTn細胞は生存していたが、GI-10細胞はウイルス量に比例して死滅した。in vitroにおいてAxE1AdBウイルスは同じ食道扁平上皮癌であっても感受性に違いがあることが示唆された。肺癌細胞においてはp53変異のある腺癌、小細胞癌、扁平上皮癌のいずれにおいても細胞死が確認できた。 2.C17-Scidマウスへ皮下移植を行い発育したTTn腫瘍およびEC-GI-10腫瘍にAxE1AdBの注入を行なった。TTn移植マウスでは腫瘍の縮小効果を認めず生存率もPBS処置群と比べて延命効果を認めなかったが、EC-GI-10移植マウスでは著明な腫瘍の縮小効果と有意な生存日数の延長が認められた。 3.p53変異があっても破壊されないTT細胞とTTn細胞に、腫瘍の増殖を停止作用が期待できるRb結合モチーフに変異を持つE1B欠失アデノウイルスAxE1AdB-3での治療実験を行った。TTn細胞に対してはin vitroでの細胞障害性およびマウスでの腫瘍モデルで有効に治療効果が得られることが認められた。一方、TT細胞に関してはAxE1AdB-3を用いても細胞障害性及び治療効果を認めなかった。 【結論】原発性肺癌においてはp53変異があればE1B55K欠失アデノウイルスにより細胞障害が認められたが、食道癌ではp53変異があっても細胞傷害性に感受性の違いがあり、感受性のある腫瘍に対してはitroおよびvivoにおいても治療効果が確認できた。また、Rb結合モチーフに変異を持つE1B欠失アデノウイルスを用いることにより、さらに強力に治療効果を増大させることが可能である。
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