【はじめに】HMG-CoA還元酵素阻害薬などの薬物によるコレステロール低下療法により冠血管内皮NO活性が改善し、労作性狭心症の症状ならびに心筋虚血が減少すること、などが明らかにされている。最近の大規模臨床試験の成績から、HMG-CoA還元酵素阻害薬の効果の一部はコレステロール低下作用(肝臓のHMG-CoA還元酵素阻害作用)以外の血管壁細胞に対する直接作用によることが示唆されている。 【方法、結果】我々は、一酸化窒素(NO)産生抑制薬(L-NAME)を長期間実験動物に投与すると、3日後には血管壁の炎症性変化が生じ、28日以降には動脈硬化性変化(中膜肥厚、血管周囲線維化)が生じることを報告してきた。本研究では、この実験モデルを用いて、HMG-CoA還元酵素阻害薬が上記動脈硬化性病変を抑制できるかどうかを検討した。実験開始3日後、L-NAME単独投与群では血管壁への単球の浸潤、monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)の発現、筋線維芽細胞の発生などが見られ、28日後には動脈硬化性病変が観察された。L-NAME+HMG-CoA還元酵素阻害薬同時投与群では、早期の炎症性変化ならびに後期の動脈硬化性病変は防止された。しかし、HMG-CoA還元酵素阻害薬投与では血清脂質レベルは全く変化しなかった。興味深いことに、L-NAME+HMG-CoA還元酵素阻害薬群ならびにHMG-CoA還元酵素阻害薬単独投与群では内皮型NO合成酵素の蛋白レベルが増加していた。 【総括】 慢性的NO産生抑制モデルにおいて、HMG-CoA還元酵素阻害薬は、コレステロール低下作用とは独立した作用を介して、血管壁の早期炎症ならびに後期動脈硬化性病変の成立を抑制した。
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