紡錘糸チェックポイント(MSC)は正常な染色体分配に必須の機構で、すべての姉妹染色体に紡錘糸が接着するまでanaphase-promoting complex(APC)と呼ばれるユビキチン・リガーゼの活性を抑制し有糸分裂後期の開始を抑制する。近年癌細胞における異数染色体の発生メカニズムとしてMSCの異常が報告され注目を集めている。我々は、過去の報告例から重度の小頭症、脳低形成、Dandy-Walker 奇形、出生前より始まる成長障害、白内障、男性外性器異常、Wilms'腫瘍、腎嚢胞などの症状を示し、染色体分析で姉妹染色体早期分離(PCS)と種々の異数染色体を示す奇形症候群を6例見つけ、Mosaic aneuploidy associated with Dandy-Walker anomaly and wilms' tumor (MADW)と命名した.そして自験例より得た培養皮膚線維芽細胞を用いMSC機能について検討を行った。細胞を紡錘糸形成阻害剤に長期曝露したところ、これらの細胞では分裂中期停止が認められず、PCSと、cyckin B分解を伴う有糸分裂からの離脱が認められ、さらに細胞質分離を経ないで次のDNA複製へと進み多倍体細胞が出現してくることが明らかとなった。これらの結果はMADWでは紡錘糸チェックポイント機能に異常があることを示している。MADWは脊椎動物では始めての遺伝性のMSC異常症であり、今回の結果は、MSC機能が神経系、泌尿生殖器系の発生と密接に関わることを示すと同時に、その異常がWilms腫瘍の一部の原因である可能性を示唆するものである.
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