抗癌剤を腫瘍内に選択的に誘導する目的で、血管新生因子VEGFに対する抗体を担体として、さらに抗腫瘍物質レシンを結合させた物質を作成することに成功した。ヌードマウスにヒト大腸癌細胞、HT29を皮下移植し、この抗VEGF抗体-レシン結合体を投与、その後の腫瘍の発育を経時的に観察した。その結果、結合体5mgの投与によって、皮下腫瘍の成長は有意に抑制され、10mgの投与により一部のヌードマウスで腫瘍の完全退縮を認めた。しかし、その抑制作用は、コントロールとして用いた抗VEGF抗体単独でも認められ、この間に抑制効果の有意な差は認められなかった。すなわち、今回の検討の範囲内では、新たに作成した結合体の抗腫瘍効果が、VEGFの阻害による血管新生阻害以上のものになりうる可能性は見出せなかった。しかし、レシン単独で同じ治療効果をもたらす場合異なり、本結合体による治療群においては、明らかに副作用は見られなかった。この事実から、転移モデルや癌細胞をより少量投与する微少転移モデル、など皮下移植とは異なった実験系でこの物質の抗腫瘍効果を検討することは、副作用のない新たな治療法を考える上で重要な検討項目であると考えられた。
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