研究概要 |
本年度は、胃癌、大腸癌、膵癌などの種々の消化器癌細胞株を購入して培養し、これら培養細胞株を用いて、まずin vitroの実験として、活性型ランソプラゾール(AG-2000)の癌細胞に対する細胞外マトリックスへの接着阻害効果について詳細に検討した。〔材料と方法〕使用した癌細胞株は、胃癌(MEN-45,NKPS)、大腸癌(HT-29,Colo320DM)、膵癌(BxPC-3,Panc-1,MIAPaCa-2)の7種類である。コンフルエント状態の各癌細胞をトリプシン処理にて剥離し、0.5%メチルセルロース含有RPMI-1640無血清培地に懸濁後に、AG2000を最終能度が0,1,10,100,1000μMとなるように溶解し、37℃で30分、1時間および2時間それぞれ反応させた。その後、通常の培地にもどしてラミニン、ファイブロネクチンおよびIV型コラーゲンで被覆された直径30mmのプレートにそれぞれの癌細胞を1x10^6個ずつ播き、12時間培養後に接着した癌細胞を中性ホルマリン液に固定し、0.1%クリスタルバイオレット水溶液で染色後に、細胞密度計を用いて接着癌細胞数を計測した。また、すでに各プレート上で接着している癌細胞に対してもAG-2000を1時間反応させた後、反応液を除去して通常の培地にもどし、0,24,48,72,96,120時間後に癌細胞の接着率、接着細胞と浮遊細胞の形態をサイトスピン法を用いて光顕レベルおよび電顕レベルで観察した。〔結果〕いずれの癌細胞も100μM以上のAG-2000前処理、30分間で有意に細胞外マトリックスへの接着を阻害した。なお1mMの濃度では、ほぼ完全に接着を阻害した。さらに、すでに接着している癌細胞に対しても接着阻害効果を示し、500μMでは72時間目から浮遊細胞が観察され、これら癌細胞は形態学的にアポトーシスの所見を呈していた。〔まとめ〕AG-2000は水溶液中では陽性に荷電して細胞内には入り込まない化学的特性があり、また細胞毒としては作用しないことがすでに明らかにされている。したがって今回の研究で得られた結果から、AG-2000は癌細胞表面のSH基(おもにインテグリンのcystein-rich repeat部位)と結合し、癌細胞の細胞外マトリックスへの接着阻害を惹起し、接着を阻害された浮遊癌細胞は足場を失ってアポトーシスに至ったものと推察された。
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