研究課題
本年度は、活性型ランソプラゾール(AG-2000)の腹膜播種予防効果に関するin vivo実験をヌードラットを用いて行った。[材料と方法]癌性腹水由来で、腹腔内投与にて高度の腹膜播種を形成し、しかもインテグリンの発現が確認されているAsPC-1膵癌細胞株(ATCCより購入)を使用した。なお、AG-2000は水溶液中では陽性に荷電した状態で存在するために細胞膜は通過できず、細胞膜表面のSH基とのみ結合する性質を持ち、通常細胞毒としては作用しない薬剤である。実験群としては、(1)AsPC-1細胞(1x10^6個)を1mMのAG-2000と1時間反応させた後に、ヌードマウスの腹腔内に注入し、6週後に屠殺して腹膜播種結節の程度をAG-2000未処理群と比較検討した;(2)AsPC-1細胞をヌードラットの腹腔内に1x10^6個ずつ注入(n=16)する。そして、注入後6時間(n=4)、第1日目(n=4)、3日目(n=4)、5日目(n=4)の各時期に小切開による開腹手術を行い、1mMのAG-2000溶液で腹腔内を30分間還流する群と生食で還流する群を作成し、6週後に屠殺して腹膜播種結節の程度を比較した。[結果]実験(1)では、コントロール群全例が腹壁、横隔膜、腸間膜、骨盤腔内に腹膜播種による癌結節を多数認めた。しかし、AG-2000前処理群では7匹中4匹において腹膜播種はみられず、他の3匹も有意に癌結節の数はコントロール群に比べて減少していた。実験(2)では、注入後6時間目におこなった腹腔内還流処置により、腹腔内に癌結節数(おもに小腸間膜)が認められたが、いずれもコントロールに比べ著明に減少していた。しかし、第1日目以降に行った群ではいずれも全くAG-2000による腹膜還流効果が見られず、癌結節が多数認められた。[まとめ]癌細胞が腹腔内に浮遊した状態で存在する場合には、AG-2000が癌細胞と直接接触することにより、癌細胞の細胞外マトリックスへの接着阻害作用を発揮して腹膜播種の形成を抑制することが示された。しかし、癌細胞がすでに腹膜中皮細胞の下に潜り込んでAG-2000が直接接触しがたい場合には、全く効果が認められない可能性が推察された。
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