研究概要 |
<目的・背景>糖尿病の治療法のひとつとしての膵島移植は、現実的なものとなってきているが、細胞の安定供給、異種細胞の免疫拒絶など解決すべき問題は多い。これらの問題の解決には、細胞の遺伝子レベルの改変やこれに関わる調節因子の解明、細胞の分子生物学的な機能評価が必要である。我々はブタ膵内分泌細胞の分離精製および初代培養法を確立しており、ニコチナマイドを加えた培地で、内分泌細胞の特徴を維持して長期的に培養が可能である系を検索している。今回インスリン活性だけでなく、長期培養におけるブタ膵b細胞のインスリン遺伝子と転写因子の発現の検討を行った。<方法>1)ブタ膵内分泌細胞の精製と培養:成熟ブタの膵臓を細切し、自己消化により膵内分泌細胞を分離した。Histopaque-1077に懸濁し、遠心し比重により精製した。細胞は10%FCS RPMI1640培地に10mM nicotinamideを加えて培養を続けた。2)インスリン分泌能測定:上記の培養細胞を各週で経過を追ってそれぞれ培地を採取し、Eliza法にて測定した。3)インスリン遺伝子の発現とこれに関わるて転写因子等の発現:われわれはすでにブタインスリン遺伝子について塩基配列を決定しており、発現について、RT-PCR、Northern解析をおこなった。PDX-1,Pax4,Pax6,NeuroD,Nkx6.1などの転写因子については、ヒト遺伝子配列により、primerを作成し、ブタ培養細胞のmRNAを用いて、RT-PCRを行い、PCR productsをsequenceしブタの塩基配列を一部決定し、これに基ずいて、再度primerを作成し、RT-PCRを行い、発現を評価した。4)光学顕微鏡による観察:培養細胞を固定し、インスリン分泌顆粒の染色を行い、検鏡した。<結果・考察>分離培養したブタ膵内分泌細胞はhigh glucose, forskolin培養にて、インスリン分泌の反応性を有し、インスリン遺伝子やこれに関わる転写因子のmRNAの発現がみられた。この発現はほぼ8週まで減少なく持続する。しかしインスリン分泌は、細胞の定着後(1週間後)をピークに4〜5週後にはピーク時の半量程度になり、インスリン分泌能の維持と遺伝子の発現とずれがみられた。形態的にも7週頃には接着性が減少してきた。細胞内環境の減衰、インスリン合成や糖代謝の経路の障害が示唆されるものであった。
|