【目的】神経路損傷後に生じるdeafferentation painの発現機序を、成熟ネコの三叉神経遮断痛モデルにおいて、c-Fos蛋白の脳内発現部位を調べることで明らかにする。 【方法】深麻酔下にネコ三叉神経を頭蓋内硬膜外において高周波焼灼により破壊し求心路遮断モデルを作製、約6ヶ月後に生じる自傷行為を確認後、深麻酔下で脳を灌流固定した。摘出脳標本から8μmの連続切片を作製し、oncogene社製c-Fos抗体(antibody-2)を用いてLSAB法により免疫染色を行い、c-Fos蛋白の発現の有無を検討した。対照群としては、片側上顎部に10%ホルマリン0.5mlを皮下注射した三叉神経急性痛モデルと、正常ネコを用いた。なお、神経核の同定には'A STEREOTAXIC ATLAS OF THE CAT BRAIN(Ray S Snider)'の図譜を用い、陽性コントロールとして大腸癌組織を、陰性コントロールとしては正常IgGで染色した標本を使った。 【結果】急性痛モデルでは三叉神経主知覚核にc-Fos蛋白の発現が見られたものの、求心路遮断痛モデルではその発現は極めて軽微であった。しかし、求心路遮断痛モデルでは痛みの情動に関与するとされる帯状回、二次体性感覚野である頭頂葉弁蓋部・島、大脳半球知覚領野と連絡を持つとされる前障において強い発現が認められた。 【考察】以上の結果は、侵害刺激受容時には脊髄後角二次知覚ニューロンでの活性化が起こるとするこれまでの知見を支持するとともに、求心路遮断後には、より上位の知覚ニューロンが賦活されるのみならず、更に帯状回を初めとする大脳辺緑系がこれを修飾しdeafferentation painが発現に関与しているという可能性を強く示唆しているものと考えられる。
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