本研究は脳虚血病態におけるDNA障害についてDNA修復酵素の役割を検討した。DNA修復酵素は断裂化したヌクレオチドを修復することで紫外線やX線曝露後および化学物質誘発による癌化を抑制していることが明らかになっており、当初は多数存在するDNA修復酵素群のうち、紫外線耐性DNA修復酵素について検討する予定であったが、cDNAプローブなどの問題から信頼性のある結果が導き出せなかった。 そこでDNA修復酵素のうち信頼性のある抗体が存在するx-ray repair cross-complementing group 1(XRCC1)について、その局所脳虚血後の動態を検討した。 ラットにおける一過性中大脳動脈閉塞モデルを作製し、再灌流後5分から24時間におけるXRCC1の発現を免疫染色とwestern blotの手法を用いて検討した。またDNA障害との関連を明らかにするため、terminal deoxynucleotidy1 transferse-mediated biotin-dUTP nick-end labering(TUNEL)染色とXRCC1免疫組織染色の2重染色を行った。 結果として、XRCC1は正常脳全般にわたり核に局在する発現が認められた。虚血後のXRCC1の発現は免疫染色では再灌流5分後に発現の低下を認めた。1時間後では中大脳動脈領域全域にわたり著明な発現の低下を認め、以後も経時的な発現低下を認めた。Western blot法でも同様の結果が得られた。TUNELとの2重染色ではこれら酵素の消失とDNA断片化の相関が認められた。 以上の結果から、XRCC1は局所脳虚血再灌流後の非常に早い段階からその発現が減少し、DNA修復能の低下によるDNA障害およびそれに伴う脳梗塞の増悪を招いている可能性が示唆された。虚血後早期のDNA修復酵素の導入が脳虚血の新たな治療戦略となり得ると考えられる。
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