研究概要 |
本研究は人の筋肉の硬さ(筋硬度)を測定する方法として,筋肉は弾性体としての性質を有するため,振動を外部から与えると固有の硬度・粘性に従って固有の周波数で振動する。この原理を利用して筋肉の硬度を測定しようとする新しい方法を確立することである。 昨年度はこの原理が人の筋肉で現実に測定可能であるか否かについて,超音波ドプラー法を用いて検討し,固有の振動が確認されることを確認した。 平成12年度はこの事実を基に,さらに測定原理を改変し,外部から投入した振動波を容易に検出できる方法について検討した。新規に採用した測定機器はアクシム社によって新たに開発されたバイオセンサーであり,測定原理は,外部から投入する振動を作る振動子と筋肉が共振した振動を受信する接触子を一本のピックアップとしてまとめたものである。振動子から5KHzの振動を投入して,筋肉の振動周波数を測定するものである。すなわち投入振動数と受信振動数の周波数の差から筋の硬度をアルゴリズムによって算定する。周波数の差が大きいほど柔軟であることになる。 この機器の基礎的性能を検証するために,筋肉の硬度に類似した硬度が異なる3種類のシリコン素材を用いて,生体モデルを作成して硬度の分解能を測定した。その結果用手的には判別が困難な,わずかな硬度差を区別することが出来ることが判明した。 さらに臨床的応用として,筋肉の硬結が原因であると考えられているいわゆるトリガーポイント(Triger point)の筋硬度について,全身麻酔の前後での測定を行った。その結果,覚醒時の周波数の差は-200Hzであるのに対して全身麻酔時には-250Hzとなり,麻酔時に有意に軟らかくなっていることが測定値として得ることが出来た。これに対して対象筋肉部位では有意差が認められなかった。これらの研究から筋肉の固有振動を測定原理とする筋硬度測定の基本的性能と臨床応用への有用性の一端を検証することが出来た。
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