1.概要:脊髄内神経興奮伝播過程ならびに圧迫によるその障害を光計測法により画像化し、脊髄圧迫性病変の病態生理機構を解明することを目的とした。本年度は方法論を確立しえた、即ち圧迫により髄内興奮伝播障害が惹起される過程を初めて画像として検出することに成功した。 2.方法:幼若ラットより作製した脊髄スライス標本を蛍光膜電位感受性色素で染色した後、酸素化人工脳脊髄液で灌流し維持した。蛍光顕微鏡下で脊髄横断面を緑色光により励起した際の蛍光を特殊高速高感度カメラで計測し、コンピュータ処理により計測領域内膜電位変化を動的画像として表示できるようにした。前あるいは後根の電気刺激に伴う髄内興奮伝播様式を解析した。急性圧迫モデルとしてプラスチック棒で脊髄の前あるいは後面を段階的に圧迫し、神経興奮伝播様式への影響を観察した。さらに圧迫解除後の回復過程も観察した。 3.結果:非圧迫標本において、後根刺激により興奮波は後角後外側部から前方及び内側へ円形に拡がるとともに、後角の一部は0.5sec以上と長い脱分極を示した。前根刺激による興奮は前角部に出現し、持続時間は4msec以下と短かった。前後それぞれからの圧迫により、圧迫部の神経興奮は減弱し、高度の圧迫では興奮性が消失した。圧迫解除直後には形態上の変形は残存するにもかかわらず、興奮様式は既にかなりの回復を示した。 4.考察:圧迫に伴う髄内興奮伝播障害の発生機序として血流障害と組識への機械的圧迫とが考えられるが、本法により血流障害の影響を除外し、純粋に機械的圧迫による影響を評価できた。圧迫解除直後、脊髄に変形が残存している時点でも髄内神経興奮伝播能の回復が認められたことより、脊髄の変形よりも圧迫による圧が障害を惹起する主たる因子と考えられた。今後圧迫の強度、部位、時間について詳細な検討を行う予定である。
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