鍼灸治療は、有効な治療手段の一つであるにも拘わらず、その作用機序、有用性についての客観的な分析結果は未だ得られていない。本研究では、最新の神経生理学、生化学的手法ならびに画像診断学を駆使して、鍼灸治療の作用機序を解明し、鍼灸治療の有用性について検討した。 近年、我々は、難治性疼痛性疾患に対する鍼灸治療は、硬膜外ブロックや神経ブロック療法が有効でない疾患に対しても、著しい疼痛改善効果を示すことがあることを経験しているが、一般には、治療適応も経験論的な判断に基づいて施行されており、体系付けられていない。また、脳出血、脳硬塞などに伴う運動麻痺や痴呆の改善効果については、鍼灸の有用性を認めても作用機序が不明であるため、一般には普及していないのが現状である。一方、鍼灸やレーザー治療では、カウザルギーの発生にも関与する交感神経系の出力の遮断効果がその重要な作用機序の一つと推測され、我々も施術後のサーモグラフィーにてこの推測を裏付ける結果を得てきた。そこで、本研究では、臨床研究および基礎実験により鍼灸の作用機序の解明を試みた。 鍼灸治療よりサーモグラフィーの経時的測定を行い、疼痛のVisual Analogue Scale(VAS)との関係について調査し、体表面温度の上昇と範囲の変化パターンが疼痛改善に及ぼす影響について検討した結果、施術後に表面温度の上昇と上昇範囲の拡大が認められたことから、治療効果が高いことが確認された。 鍼灸療法の作用機序は、刺激部位を越えた広範囲の交感神経系の出力遮断が惹き起こされ、組織の血流改善と発痛物質の産成抑制により疼痛の悪循環を断つこと、および、エンケファリンやガラニンなどのオピオイドペプタイドの産成増加によるのではないかと思われる。
|