研究概要 |
卵母細胞の成熟過程や卵胞の生理的機能をin vitroで再現し,そこでの情報伝達機構を解明するためには,卵胞構成細胞を含んだ卵胞の三次元培養を行なうことが必要不可欠である。培養皿上での2D培養と異なりcollagenゲルを用いた3D培養では,原始卵胞は卵胞腔のある状態へと発育し,完全な腔構造を形成するに至った。ここで見られた卵胞の発育はFSHの濃度依存的に促進され,発育卵胞にLHを投与すると卵胞が崩壊することを確認した。このように,本研究で確立した3D培養法が生理的条件に近い卵胞の発育状態を維持していると考えられたため,さらに以下の点について詳細に検討した。 卵胞の発育過程において,より成熟した卵胞が成熟度の低い卵胞の発育を阻止し,その結果いわゆる「優勢卵胞」の選択がおこるという機構が考えられている。そこでこの現象をin vitroで再現するため,まず採取した卵胞を実体顕微鏡下で発育状態に応じて選別し,それぞれを2Dまたは3D培養した。一定期間培養した後,発育卵胞の培養液を未発育卵胞の培養液に添加し,未発育卵胞の発育状態を観察した。その結果,3D培養した発育卵胞の培養液を3D培養している未発育卵胞に加えた場合,その発育が50%以上抑制された。一方,2D培養系の培養液を3D培養系に加えた場合,3D培養系の培養液を2D培養系に加えた場合とも,発育の抑制は確認されなかった。これらより,3D培養系で培養した卵胞は未発育卵胞に対する発育抑制物質を分泌していること,さらにそのような抑制物質による制御に適切に反応するということが示唆された。それに対し2D培養系ではいずれの現象も確認できなかった。以上本研究は,卵胞間コミュニケーションという点においても極めて生理的条件に近い卵胞の発育状態を再現していると考えられ,今後卵胞発育の機構解明に大きく役立つことが期待される。
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