研究概要 |
本研究の課題としてラセン神経節細胞の培養、蝸牛の培養、両者の共培養時のシナプス形成の確立の3つが挙げられる。このうち本年度の成果として、ラセン神経節細胞の培養のノウハウが確立されたことがまずあげられる。従来らせん神経細胞の長期の培養は比較的困難であり、培養した細胞のうち生存するのはごくわずかであった。神経成長因子群の投与により、大幅に生存するラセン神経節細胞の数が増大した。BDNF,NT4,NT3はいずれも単独でラセン神経節細胞の生存確率を上昇させる他、複数の因子の同時投与により相乗的にその効果を増すことが確認できた。さらに、神経成長因子以外の成長因子、FGF、PDGFの作用も検討中である。こうした成長因子を投与することでラセン神経節細胞中の神経伝達物質量、およびそれらの受容体の分布の変化の有無も興味がもたれるところであり、今後こうした研究も検討している。 蝸牛の器官培養については現段階でも一応可能ではあるが、電気記録を安定して得る状態ではない。今後、単に細胞が生存しているだけではなく、電気記録を得ることができるように培養方法を工夫していく必要がある。 さらに重要な課題としてラセン神経節細胞が有毛細胞を標的細胞として認識する機構を解明する必要がある。これまでの実験ではラセン神経節細胞と蝸牛を至近距離に培養しても軸索が蝸牛に向けて伸張していく傾向はみられない。もしいずれかの成長因子が標的細胞の同定に関与しているとすればそれを強制発現させた細胞にむけてラセン神経節細胞の軸索が伸張する可能性がある。今後まず、継代培養可能な細胞に、候補として考えられる成長因子を強制発現させラセン神経節細胞の軸索の変化を検討する予定である。
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