健康な被験者の前頭部に電極を設置し、1〜1000Hzを増幅するアンプにつなぎ、静脈性嗅覚検査時の脳波を記録した。このとき、被験者は静脈性嗅覚が発現している間、応答スイッチを押すように指示し、ニオイ応答も電気信号として脳波と同時に、データレコーダーに記録した。この結果、被験者の静脈性嗅覚発現に相前後して、バースト状の自発脳波の増強が見られた。この増強は周波数を分析すると、30〜200Hzの範囲であった。 この静脈性嗅覚による脳波の増強は、静脈性嗅素(アリナミン)の静注によって起こり、生理食塩水の静注によっては起こらなかった。また、顔面筋の収縮による筋電図では、脳波の10倍以上の高電位が発生し、筋電図の混入によるアーチファクトは否定された。 ニオイによりヒト嗅球が、40Hz程度の律動脳波を出すことが、以前より知られており、また、ラットに於いて、ニオイ刺激時に頭皮上から30〜80Hzの脳波が出るという報告が1999年あった。故に、この静脈性嗅覚における脳波の変化は、ニオイによる嗅球の律動脳波を捕らえている可能性が高いと思われ、これを証明する実験を計画中である。 本年度の研究において、静脈性嗅覚検査時の脳波を測定することが、他覚的静脈性嗅覚検査への有望な候補であることがわかった。
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