本研究では、角膜を構成する細胞外基質の1つであるテネイシン(TN)の角膜移植の創傷治癒および移植後拒絶反応における役割を検討することを目的とした。実験には、Balb/cマウス、Balb/cTNノックアウト(TNKO)マウスとC3Hマウスを用いた。はじめに、角膜移植時の創傷治癒過程におけるTNの関与を解明するため、各マウス間で全層角膜移植を行い、TN発現の推移とその細胞由来を検討した。その結果、TNKOマウスが宿主では、通常マウス由来の移植片実質にTN陽性染色を認めた。通常マウスが宿主では、移植後7日目にTNKOマウス由来の移植片実質深層にTN陽性所見を認め、14日後には移植片の創傷部位に近い実質細胞周囲にも陽性所見が得られた。以上より、TNが角膜移植時の実質細胞の遊走に深く関与していると推測された。次に、拒絶反応におけるTNの役割の検討では、TNKOマウスが宿主の場合には通常マウスと比較して、移植片への血管侵入が少なく、同種角膜移植の拒絶反応の発症率が低かった。また、角膜内へのランゲルハンス細胞の遊走の程度をTNKOマウスと通常マウスで比べるとTNKOマウスで有意に少なかった。これらの結果から、TNは角膜移植時の拒絶反応を促進する因子の1つであると考えられた。
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