研究概要 |
細菌は病巣や常在菌層でバイオフィルムと呼ばれる薄膜状構造を取り、個々の菌体や菌塊全体を多糖体等で覆い外部からの化学的、物理的刺激に抵抗している場合がある。本研究では人工バイオフィルムの系を構築し、その種々の外部刺激に対する抵抗性を懸濁状態での抵抗性と比較して検討した。 (1)人工バイオフィルムの作製方法の検討:Cytofuzeにより細菌を支持体に遠心付着させ、これに培地を供給して付着性の薄膜状の細菌塊を作製した。走査型電顕、共焦点レーザー蛍光顕微鏡(ACAS)等でその構造を観察し、多糖体の被覆等の構造を確認した。ACASによる構成細菌数の測定も可能であった。また、フィルター上にバイオフィルムを作製する系も確立した。(2)人工バイオフィルム中の細菌の生死の判別:種々の蛍光標識を用い、細菌の生死、その計数方法を確立した。その結果、抗生剤の殺菌効果、酸素毒性等の検討が可能となった。(3)耐酸性の検討:Streptococcus mutans groupの細菌を用いた人工バイオフィルムでは、懸濁状態よりも耐酸性が増していた。(4)抗生剤に対する抵抗性:Pseudomonasを用いた人工バイオフィルムでは、懸濁状態でのMICに相当する濃度の抗生剤に対して抵抗性を示していた。バイオフィルム形成による病原性の昂進が示唆された。(5)人工バイオフィルム中の物質浸透性:バイオフィルム形成による物質浸透性の阻害が予想されたが、抗体(分子量:約15万)を用いた場合、比較的良く浸透していた。上記2,3の現象は、酸や薬品の浸透が悪いためでは無く、バイオフィルム形成による性状の変化であることが示唆された。(6)酸素耐性:嫌気性菌も、バイオフィルム状態では、懸濁状態に比して、高い酸素耐性を示した。 バイオフィルム独特の性質は、ビルレンス(病原菌力)に関係しており、さらなる検討が必要である。
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