研究概要 |
ストレスに対する生体の反応は種種の生理機能に影響を与え、疾患の原因にもなる。ストレスによる歯ぎしりは顎関節症においても重要視されている。我々は、ストレスそのものが別の機序で(歯ぎしりがなくても何らかの生体成分を介して)咬筋の機能に影響を与える可能性を考えた。炎症メディエータのヒスタミンに着目していたが、マウスを用いた実験で、絶食により骨格筋のヒスタミン合成酵素(HDC)活性が高まることがわかった。絶食は動物実験系で胃潰瘍の発症率を高めることから、ストレスの一つであると考えられた。ストレスが胃のHDC活性を高めることも明らかになった。これらの結果からストレスが骨格筋のHDC活性を高めるかどうかについて検討した。 マウスを用いて長時間歩行、水浴ストレス、低温ストレス、拘束ストレス実験を行った。拘束ストレスで円筒の前方部分にプラスチック板をとおしマウスを閉じこめていたが、拘束実験中ずっとプラスチック板を咬み続けていることに気づいた。これを利用し実験中プラスチック板を咬み続けているものと尻尾を固定しプラスチック板にとどかないようにし、実験中板を咬めないものとで咬筋のHDC活性を比較した。すると同じ拘束ストレスでも咬んでいたものはHDC活性が上昇し、咬まなかったものは上昇しなかった。また、水浴ストレスでは胃のHDC活性が上昇し、胃出血が観察されたが、咬筋のHDC活性は上昇しなかった。このとき咬筋を使用するような運動をマウスは行っていなかった。長時間歩行では使用した筋肉のHDC活性が上昇した。以上の実験結果よりストレスそのものでは咬筋などの筋肉のHDC活性は上昇せず、ストレスにより惹起される運動により筋肉のHDC活性が上昇し、これにより合成される発痛物質のヒスタミンが筋肉痛を誘発することが予想できるようになった(Amj Physiol279:R2042-R2047,2000)。
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