研究概要 |
咀嚼運動は連続反復運動であり、その時の咀嚼力は、食品の硬さや大きさに応じて合目的的に調節されている。本研究では、咀嚼運動に類似した連続反復運動である下顎タッピング運動を用いて、実験1としてbiofeedbackがタッピング力の調節におよぼす効果を検討し、次ぎに実験2として咬合高径をランダムに変えた時にタッピング力がどのように調節されるのかを観察、調節に必要な情報は何かを検討しようとした。 咬合高径を自動的に調整するために、0〜2.5mmの高さを0.5mm単位で自由に制御できる咬合高径可変装置を作った。被験者の上下顎にシーネを作り、一方に可変装置を、他方に咬合力測定板を固定し、任意な反復タッピング運動に高径をランダムに変えるようにした。得られた結果は、以下の通りである。 1.実験1 (1)タッピング力調節の精度と方法は、駆動する力の大きさによって異なった。 (2)開口相時間およびタッピング周期を変えないでタッピング力を調節する。 2.実験2 (1)全ての被験者は、タッピング時に負荷した垂直的顎位の変化(0.5、1.0、1.5、2.0および2.5mmの5種類)を認知していた。 (2)タッピング時の垂直的顎位を0.5、1.0、l.5、2.0および2.5mm変化させた時のタッピング力の平均値(標準偏差)は、それぞれ3.88(0.65),3.73(0.55),3.68(0.60),3.48(0.70)および4.56(0.95)Kgfで、顎位間に有為差を認めない(p<0.05)。 (3)タッピング時の下顎運動加速度(ピーク値)においても、顎位間の統計的差異は観察できなかった。 3.以上の結果は、咀嚼系は顎間距離が変化してもタッピング力をほぼ一定に保つ調節機構を備えていることを示唆している。今後は、運動加速度の変化を詳細に解析し、どの時点で調整を終えるのかを検討する必要がある。
|