当教室ではラット洞毛を機械的に刺激した三叉神経誘発電位を測定し、その求心神経である眼窩下神経挫滅実験で三叉神経誘発電位の回復過程を報告している。本研究の目的は、三叉神経誘発電位の測定法を確立し、三叉神経知覚麻痺の回復過程の客観的な評価、特に術後の偶発症として三叉神経領域の知覚麻痺の頻度が多い顎変形手術術後(年間約30例)に臨床応用しようとするものである。 誘発電位検査装置(日本光電社製)を使用し、健常者(ボランティア)10人において、オトガイ神経を電気的に刺激した。電気的刺激は、電気パルス発生装置を使用し、刺激強度、頻度を変化させた。測定は、国際式10ー20法に基づき頭皮上の様々な位置に記録電極を置き、生体アンプで増幅後、加算平均処理より三叉神経誘発電位の変化を観察した。 これにより、刺激方法、適刺激値、および記録電極の位置を確定し、正常波形の再現性が得られた。正常波形は、Brussels国際シンポジウムの方法に従い上口唇刺激で、P3、N9、P20、N25、P35、N45、下口唇刺激でN3、P9、N13、P20、N25、P35、N45が平均正常波形の値として得られた。 現在は、顎変形術前患者に本研究の主旨を充分インフォームドコンセントし、三叉神経誘発電位を測定しておき、術後、知覚麻痺が出現した症例に対し三叉神経誘発電位を経時的(術後2週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月)に記録しその変化を分析中である。また、2PD、SW知覚テスター(SAKAI社製)を使用し、三叉神経誘発電位の潜時及び振幅変化との関連も併せて調べている。以上の方法により、知覚麻痺の回復の経過を定量的及び定性的に評価し、回復の程度を総合的に判断する。
|