本研究では、既存のタンパク質にアミノ酸置換をほどこすことによって従来にない新たな機能を付加し、人工的に新規タンパク質を構築することを目指した。具体的には、4本のα-へリックスからなるヘリックスバンドル型タンパク質であるシトクロムb562を構造的な土台とし、これに種々のアミノ酸置換を導入してそれらの構造と性質について調べた。まず、PCRを用いて大腸菌よりシトクロムb562遺伝子cybCを増幅し、クローニングベクターpBluescript II SK(+)に組み込んだ。NM554を宿主として培養し、目的タンパク質を精製した。酸素結合性を持たせるため、軸配位子のひとつであるMet7をGlyあるいはAlaに置換した一重変異体(M7G、M7A)を作成したところ、ヘムが脱離してしまうことがわかった。そこで、立体構造既知のいくつかのヘムタンパク質のヘム周辺構造を詳細に調べたところ、プロピオン酸周辺の炭素と非炭素の原子数の間に強い相関を見い出すことができた。この結果に基づき、シトクロムb562のGlu4、Glu8をともにSerに置換した2種の三重変異体(E4S/M7G/E8SとE4S/M7A/E8S)を作成した。尿素変性の実験から、これら三重変異体は予想どおり安定にヘムを保持していることがわかった。さらに精製標品について共鳴ラマンスペクトルを測定したとろ、これらがミオグロビンと類似したヘムポケットを有することがわかった。また、還元型標品は分子状酸素をきわめて安定に結合できることが明らかとなった。
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