研究概要 |
近年,急増しているアレルギー性皮膚疾患の患者において,痒みは不快な感覚にとどまらず,掻破による症状悪化,難治化をもたらす。しかし,現状では,アレルギー性そう痒症を研究するための動物実験モデルがないため,その発症機序は不明な点が多く,従って有用な抗そう痒薬が少ない。ヒトは蚊に刺されると,蚊刺部がアレルギ-性の皮膚反応を示すので,蚊刺による痒み反応もアレルギー性に引き起こされる可能性が高い。そこで,本研究では,蚊に繰り返し刺させたマウスをアレルギー性のそう痒症モデルマウスとして確立することを目的に,痒み関連掻き動作の観察を行い,血中のIg量を測定した。数十匹の雌成虫ヒトスジシマカが入ったケージの中に吻側背部を除毛したマウスを金網に閉じ込めて,1時間蚊に刺させた。一部の実験では,蚊唾液腺の抽出液を調製して皮内注射した。これらの処置を週2回,4-8週間行った。蚊刺あるいは注射直後から1時間,ビデオカメラによる撮影を無人環境下で行い,その後ビデオを再生して背部への後肢による掻き動作数を数え,そう痒反応を定量した。マウスに蚊刺を行うと処置の回数に依存して掻き動作数が増加した。このことは,蚊刺によって惹起される掻き動作はアレルギー性の反応であることを示唆する。また,蚊刺直後からの10分間が掻き動作のピークであったことから蚊刺によるこの反応は即時型であった。蚊唾液腺抽出液の反復注射実験においても,反復蚊刺処置と同様の結果が得られた。血中のtotal IgEとIgG1の量を測定したところ,反復改刺を行ったマウスのIgE量は無処置マウスと比べて増加傾向を示し,IgG1量は有意に増加していた。このように,マウスに繰り返しの蚊刺を行うことにより,自然なアレルギー性のそう痒症モデルを作製できたことは,そう痒の発症機序の解明と抗そう痒薬の開発に有力なモデルを提供する。
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