遺伝子を細胞内に導入するトランスフェクション法は、遺伝子の機能解析のための有用な技術の一つである。しかしながら、トランスフェクション法は必ずしも成功するとは限らず、努力をしたにもかかわらず目的とした遺伝子を発現した細胞が得られないケースも多い。この理由の一つとして、細胞質から核にDNAが移行するステップの効率の低いこと考えられる。しかしながら、DNAの核移行は生理的条件下では殆ど起きないこともあり、研究者の注意を惹いてこなかった。本研究では、このような現状を鑑み、DNAの核移行メカニズムを明らかにする目的で以下の実験を行った。 蛋白質の核移行に関しては分子レベルの解析が進み、多くのことが明らかになっている。そこで、DNAを用いて核移行を調べる前に、核移行シグナルを有し、核局在が明らかになっている蛋白質リン酸化酵素MNBを用いて、核移行を測定するための実験系の確立を試みた。MNB蛋白質はチオレドキシン融合蛋白質として大腸菌に発現させ、チオボンド樹脂およびニッケル樹脂によるアフィニティー精製(MNBはヒスチジンリピートを有している)により精製した。ラット副腎髄質クロム親和性細胞腫から株化されたPC12細胞を、コラーゲンコートしたカバースリップ上に増殖させ、ジギトニン処理をすることにより細胞膜を高分子が透過できるようにした。さらに、精製MNB蛋白質を添加した後、抗MNB抗体を用いて蛍光顕微鏡により核移行を調べた。蛍光が核に認められることから、MNB蛋白質の核局在が確認されたが、ATP非存在下あるいは4℃においても核に蛍光が認められた。現在、ジギトニン濃度などを検討して、温度依存的に核移行が起きる条件を検討している。また、マイクロインジェクション法によりDNAおよび精製MNB蛋白質を細胞質に直接注入する実験を行なうなど、ジギトニン処理細胞を用いた方法以外についても検討している。
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