研究概要 |
本研究では、日本人を対象に、MDR1、MRP1、MRP2/cMOATの3種のABCトランスポーターの遺伝的多型について検討を行った。 (1)MDR1については、健常人末梢血と胎盤組織より、翻訳領域・非翻訳領域の9箇所に10種の変異を認めた。この内、G2677(A)/(T)とA2956Gは、アミノ酸変異を伴うミスセンス変異であった。解析した検体には、1例を除くと全ての検体に何らかの変異が認められ、MDR1遺伝子には極めて高頻度に多数の変異が同一遺伝子上に同時に生じていた。頻度は1〜49%であった。さらに、胎盤組織に発現するMDR1mRNA、p-糖たんぱくについて検討した結果、特に、C-145G,G2677Tにより、胎盤でのp-糖たんぱく発現量が低下することを確認した。しかし、両変異間にはリンクは無く、翻訳領域の変異が発現をコントロールするとは考えにくいことから、非翻訳領域の機能解析の必要性が指摘された。(2)MRP1に関しては、全翻訳領域を解析した結果、合計16箇所の変異を認め、そのうち4種類がアミノ酸変異を伴っていた。この内、G128C,C218T,G3173Aは膜貫通領域に存在し、G2168AはATP結合部位に存在していた。前者の変異は立体構造に影響し、これらの変異の薬物輸送能への影響が予想された。(3)MRP2/cMOATの全翻訳領域を解析した結果、合計6箇所に変異を認め、4種類がミスセンス変異であった。このうち3種類がATP結合部位、1種類が膜貫通領域に存在していた。C2302Tはデュビンジョンソン症候群の原因遺伝子であり、新規変異であるC2366T,G4348AもC2302Tと同様に核酸結合部位に存在した。 以上より、ABCトランスポーターには想像以上に多数の遺伝的多型が存在することが明らかとなり、特に膜貫通領域、ATP結合部位に存在する変異が、薬物動態に影響を及ぼすことは容易に想像でき、今後の研究の必要性を示したものである。
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