2型糖尿病では、インスリン抵抗性が高率に出現する。この原因には、インスリン受容体蛋白の遺伝子異常や、シグナル伝達系、糖輸送蛋白系の障害などが推定されているが、現在のところ患者の数%にしか認められていない。我々は受容体の周辺環境に原因を求め、細胞膜に存在する糖脂質を研究してきた。インスリンは細胞膜上の受容体に結合し、そのチロシンキナーゼ活性を高める事で作用をあらわす。この活性を特異的に阻害する糖脂質の高発現を、我々はNIDDMのモデルマウスで報告している。そこで本研究では、実際のヒト脂肪組織から糖脂質を抽出し、糖尿病の有無、さらにインスリン抵抗性との関連を検討した。対象は昭和大学関連病院において、悪性腫瘍等で開腹手術を受けた2型糖尿病7症例、および非糖尿病9症例である。術前に十分なインフォームド・コンセントを得、手術時に皮下脂肪を採取し糖脂質の抽出を行った。その結果2型糖尿病群7例中インスリン療法歴の長い者を含む5例に、糖脂質sialosyl norhexaosylceramide(SnHC)の明らかな発現を認めた。これに対し非糖尿病群では、SnHC発現は9例中1例も認められなかった。SnHCはin vitroでインスリン受容体チロシンキナーゼ活性を抑制することが報告されていることから、糖尿病患者でのSnHC高発現がインスリン抵抗性の原因となっている可能性が示唆された。引き続き次年度では内臓脂肪での検討を行い、細胞膜の糖脂質異常とインスリン抵抗性の関連を明らかにしてゆく予定である。
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