トレーニングによる酸化ストレスが遺伝子の傷害をひき起こしている可能性を確かめるため、 1)ミトコンドリア遺伝子の変異出現率を一般健常人と長距離走競技者との間で比較した。 2)DNAダメージの指標である8-oxoguanineを指標として検討した。 1)新たに健常人15人、長距離走競技者15名から末梢血を採取し、白血球ミトコンドリアDNAを抽出氏、D-ループ領域の全塩基配列を読み取り比較した。標準のミトコンドリアDNA D-ループの塩基配列との違いは両グループにおいて同程度であり、長距離走トレーニングによる酸化ストレスが最もダメージを受けやすい遺伝子の一つであるミトコンドリアDNAの変異をもたらしている可能性は認められなかった。 2)健常人が激しいウエイトトレーニングを行った際のDNAダメージをその指標である8-oxoguanineの血中濃度および尿中排泄量の変動から検討した。何れの指標においても一回の激運動が健常人のDNAダメージを増大することを示す結果は得られなかった。 これらの結果はいずれも運動がヒトの遺伝子傷害増大をひき起こす可能性を否定しているが、遺伝子傷害の修復機構が低下していると考えられる高齢者の運動あるいは喫煙と運動との組み合わせなどの状況についての検討を待って結論すべき問題と考えられる。
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