効率を重要視する社会・経済的傾向、都市・郊外・農漁村に拘わらず朝食準備のための早出の人手確保が困難とされる病院や老人福祉施設、また患者や入所者の食事を通したQOL改善等を背景として、ヘルスケア施設で提供される病態食(治療食)の安全な長期保管貯蔵を可能とする調理システム開発を目指して本研究を進めて来た。 平成11年度以来の研究により、病態食(治療食)を加熱調理後に袋詰、空気を低減させて密封、直後に冷却して温度を十分に低下させる方式(低酸素包装チルシステム)を適切に実施した場合、その後の低温保管により、4週間以上微生物学的に問題のない状態を維持することが可能であると証明された。4週問以上の保管を可能とするためには、上記各工程における温度と時間の基準設定が危機的に重要な役割を果たすが、わが国の中小規模の病院や老人ホームの厨房の現状、必要なハードウエアの購入・設置のための投資やスペース、作業を管理する人員の知識・教育、さらに病態食の種類と日本食の特徴を考慮すると、欧米のヘルスケア施設と同一の基準を設定することが必ずしも適切ではないと判断された。最大の問題の1つは、導入コスト及びランニングコストが高い冷却工程であると推測されたため、安価で安全かつ省スペースで行うことのできる冷却装置を電力会社総合研究所および厨房機器メーカーの協力を得て開発した。さらに加熱調理から低温保管までの各工程で厨房の諸要素による制限を踏まえて順守できる温度と時間を設定し、病態食の保管期間に幅を持たせたハサップ(HACCP)管理方式を構築したことに本研究の特徴がある。この調理システムの開発により、ヘルスケア施設での安全な作りおき(クックチル保存)が普及し、食事に多彩な選択性が導入されると共に、勤労者の早朝出勤時間が現行の4時半または5時から少なくとも1時間程度は緩和されるようになるものと思われる。
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