これまで科学教育における近代科学の基本的自然観の再生産の問題は全くといってよいほど扱われてこなかった。しかし近代科学を生み出しえなかった非西欧に属するわが国の理科教育の特質を理解するうえでも、また理科の学習を進めるうえでも、近代科学の基本的自然観の再生産という問題は、看過できない重要な問題である。 そこで次の点を解明した。 1.関連先行研究を整理し、理科教育研究の文脈においても、たしかに外国の科学教育思想導入におけるわが国の伝統的自然観と近代科学の自然観とのかかわりの問題が取り上げられたり、上記の日本語「自然」の研究成果に依拠しつつ理科教育にも頻出する「自然」と英語の"Nature"とが含意する意味の相違についても言及されている。さらに近代科学の基本的自然観を構成するいくつかの理念が現代の日本人(大学生)にどの程度形成されているのか、その実態調査が行われていることを明らかにした。 2.この問題を研究する基本的視点として、理科教育史的視点、理科教育の目的論的視点、及び比較理科教育学的視点をも含めた包括的な理科教育論的視点の3つを提案した。 3.近代科学の基本的再生産を結果として授業の中で行っているドイツの著名な実践家であるヴァーゲンシャインによる「落下の法則」の範例的教授過程を事例を再構成した。 4.ヴァーゲンシャインの範例的教授過程における「自然の数学化可能性」観の伝達の意味と方法を分析し、近代科学の誕生を見た西欧の科学教育論における近代科学の基本的自然観の再生産の様相の一端を解明した。
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