本研究はガスイオンを用いて、粒子線による表面改質の新しい手法の展開をはかるために計画されたものである。セラミックスへのイオンビーム照射によりはじき出し損傷に起因する欠陥の蓄積と、固体に固溶しない希ガスの特性により、照射領域の域の体積変化(膨張・隆起)が起こる。本研究の目的は、この体積変化を応用した表面隆起加工法を検討し、今後のイオンビームを使った放射線応用の新たな展開をはかるための基礎を確立することである。 平成11年度においては、高温半導体や原子炉の温度モニターとして使われているシリコンカーバイドを試験試料としてビーム加工の検討を行った。実験の方法は、(1)10μmのグリッドメッシュを微細マスクパターンとして用いて、(2)加速器によりヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンの希ガスを、エネルギーを30〜380keVの範囲で加速して、室温において表面から150nmの深さに最大1.5×^<22>/m^2照射し、(3)レーザー顕微鏡および原子間力顕微鏡による表面形状の精密測定を行った。(4)このマスクパターンの転写精度を、イオン種、加速エネルギー、照射量をパラメータとして調べた。(5)照射後に購入品の赤外線加熱装置を用いた熱処理を行って、焼鈍による形状変化特性を調べた。また(6)加工領域の微細組織の変化を透過型電子顕微鏡により調べ、形状特性の変化と試料の構造変化の関係を明らかにした。 その主な結果は、(1)メッシュのグリッドパターンを照射領域の最大1μmの隆起として転写することができた。(2)注入元素数あたりの隆起量は注入元素の質量が大きくなるにつれ少なくなり、効率的な加工が可能であることが分かった。(3)微細組織観察によって隆起は主に照射領域での非晶質化によって引き起こされることが明らかとなった。(4)さらに注入量を多くした場合には希ガスバブル形成によるブリスタリングが発生し、さらに大きな隆起と注入領域の剥離を起こした。(5)照射後焼鈍による隆起形状は、注入量の少ないもの(1×10^<21>/m^2以下)では1200℃焼鈍まで安定であったが、ヘリウムの注入量が多いもの(1.5×10^<22>/m^2)では800℃においてブリスタリングによる剥離が起こることが明らかとなった。これらのことから、高い精度の隆起加工においては重イオン照射がよく、照射領域の剥離を必要とするときはブリスタリングを起こしやすいヘリウムが適していることが分かった。これらの特性を利用して、原子炉などの照射環境モニターへの応用について検討を行った。
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