我々は磁性細菌の磁界および電界による方向制御が可能であるかどうかを研究テーマとして取り上げ取り組んだ。環境から採取した菌体は球状で大きさにはばらつきがあり、体長およそ1-3μm、菌体内に10-40個の磁性体を持っていることがわかった。この菌体はこれまでに報告されているものとは形状が異なり、新種である可能性が高い。磁性細菌は磁界に反応して移動すると考えられるが、その磁界の大きさとの関係は調べた例がなく、今回、磁界の大きさを変化させて、磁性細菌の挙動を調べた。磁界は0.1Hzの正負対称の方形波で、その大きさは電流によって制御され、最大磁束密度8x10^<-3>[T]まで印加することができるよう設計した。観察のためにスライドグラスの中央部にはマイクロピペットで磁性細菌を含む液体を滴下し、その上には乾燥を防ぐためにカバーガラスを乗せた。磁性細菌の動きは位相差顕微鏡によって観察し、画像はビデオテープに記録して、後ろから解析を行った。0.5x10^<-4>4[Tesla](0.5ガウス)以下の微弱な磁界では、環境磁気の影響を受けて非常に計測が難しいため、詳細には測定できないが、磁束密度が約5x10-4[Tesla](5ガウス、地磁気の10倍)程度では3-6mm/分で、最も大きな移動速度を示すことがわかった。それ以上の磁界では速度は減少し、細菌の固体にも依存するがおよそ、50x10^<-4>[Tesla](50ガウス、地磁気の100倍)で速度は2-3mm/分程度となりほぼ一定値を示した。我々は磁界が大きくなると、それに伴って移動速度も大きくなると予想していたが、そうではなく減少することがわかった。そこで、その原因を探るために詳細に細菌の軌跡を観察したところ、磁界が大きくなると細菌が移動する際の体の振れ角が大きくなり、結果的に移動速度が小さくなることがわかった。振れ角が変化する原因については細菌の鞭毛モーターの電子伝達系、あるいは物理的側面から現在検討中である。
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