環境負荷の大きい石油化学工業から脱却するため、再生可能な植物資源から生分解性のある高機能成形材料をつくることは、地球環境問題を解決する上で必須な課題である。本研究ではリグニン分解性担子菌と高圧・熱圧複合処理による100%植物材料のみからなる成形材料の開発を目的とした。初めに、木粉の熱可塑化に有効な菌をスクリーニングする目的で、上記の腐朽型を代表する代表的な菌株を選び、ウダイカンバ及びスプルースのプレーナー削片に菌処理を行った。菌処理後熱圧締して成型物を製造した結果、白色腐朽菌C.hirsutusにおいてMOR、白色腐朽菌C.subvermipora及び褐色腐朽菌T.palustrisにおいてMOEの顕著な増加を認めた。これらの菌による木材の熱可塑性の変化を動的粘弾性の変化から検討したところ、成型物の強度向上が見られた腐朽菌処理ではリグニン軟化温度の低温側へのシフトが起きていることが明らかとなった。また、従来リグニン分解力が弱いとされていた、褐色腐朽菌T.palustrisにおいてもリグニンの部分的分解により熱軟化温度が大きく低温側ヘシフトしている現象を見出した。これらの結果に基づき、製材工場から廃棄される微粉末木粉の利用を考慮してラジャータパインの木粉から成型物を作成した。その結果、未処理で160℃、30Mpaの熱圧条件で得られるMOR、MOEがC.subvermiporaやC.hirsutusで処理すると130℃、30Mpaの条件で得られることが示された。また、成型物の強度は、外部可塑剤である水の添加によって向上するが、水の影響はそれぞれの菌の腐朽特性に依存することが示された。C.subvermiporaは、これまでに知られている最も優秀なバイオパルビング菌であり、酵素から離れた場所のリグニンをin situラジカル反応で選択的に分解する特異な能力を有する。今回得られた結果は、こうしたそれぞれの菌の腐朽特性が木材の物理特性に大きな影響を及ぼすことを示す。
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