研究概要 |
外的刺激に対する細胞内反応には、チロシンキナーゼ型受容体やG-タンパク質結合型受容体といった細胞膜受容体を介するもの、ステロイドホスモン受容体などの細胞内受容体を介するものなど、あるいはHSP70といったストレス誘導型タンパク質を介するものが知られている。これらの反応系はすべて細胞内情報伝達経路として複雑なキナーゼ系を経由する。一方、我々は最近、これまで細胞膜輸送体として知られていたNa/K-ATPase(分子全体またはその一部)が細胞膜から核へ直接運ばれ転写因子として働くことを示唆する結果を得た。これは次の2つのことを意味する: (1) 細胞膜から核への情報伝達経路として第二・第三の分子を介さない最も単純な系の存在 (2) Na/K-ATPase分子全体が転写因子である場合、細胞膜から核への逆行性小胞輸送系の存在 本研究計画では以上の2つを証明することによってこの新経路の確立を目指す。 本年度(初年度)は以下の項目について計画を遂行し、結果を得た。 (1) 転写因子としての機能ドメインの同定:酵母の2-ハイブリッド系を用いてNa/K-ATPaseαサブユニットのSer^<692>-Thr^<777>が転写調節活性を有することを示した(Ogita et al., 印刷中)。 (2) 核マトリックスにおけるNa/K-ATPaseの動態:まず、TritonX-100、硫安を用いた核・核マトリックスの精製法を確立した。ついで、この方法を培養細胞に適用して、Na/K-ATPase(α、β両サブユニット)が核マトリックスに存在すること、また、細胞のウアバイン処理によりその量が増加することを示した(Yoshimura et al., 印刷中)。 研究代表者らは 既にイオンポンプとしてのNa/K-ATPaseの機能ドメインモデルを提唱したが、本研究計画により、新たに転写因子としての機能ドメインがNa/K-ATPase中に同定された。将来、細胞膜から核への情報伝達分子としてのNa/K-ATPaseの新機能が明らかとなり、全く新しい細胞内情報伝達経路が確立されることが期待される。
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