生体を構成する細胞の機能発現は、細胞内外からの様々な刺激因子によって促進的あるいは抑制的に制御されている。促進性制御に関する研究は非常に多い。しかし、抑制性制御は、促進性制御と同様に生物学的に重要であるにもかかわらず、その研究は極めて少ない。それは、抑制性制御を行う生理活性因子で化学構造まで判明しているものが少数しかないからである。申請者達は最近ブタ脊髄塩抽出物中に抑制性因子の存在することを発見した。この新奇と考えられる抑制性因子の単離・精製を行い、その化学構造を決定し、さらに、その生理作用機序を解明することが、本研究の目的である。 1.精製について:いくつかのHPLCカラムやFPLCカラムを試した結果、HPLC用マルチパーパスカラムと弱イオン交換カラムで、この因子をさらに精製できた。しかし、その精製物は完全に単一標本になっているか否かはまだわかっていない。現在、この点を調べている。精製が簡単ではないのは、この因子は水溶性が極めて高く、C18カラムなどの疎水性カラムに全く結合しないからである。 2.因子の構造について:今までの研究結果から、この因子がペプチドではなく、しかしアミノ基を持った、(おそらくそのために)中性で正の電荷を持った、非常に水溶性の高い、分子量は350かそれ以上の、比較的低分子であることがわかった。 3.作用機序について:タイム・ラプス顕微鏡観察により、この因子の抑制作用は完全に可逆であることが判明した。この因子は、細胞の遊走・接着・増殖を抑制し、細胞の還元活性を低下させる。因子を細胞に作用させ、細胞の還元活性がコントロールの20%以下に下がった時点で、因子を洗い除き、新しい細胞培養液に置き換えると、細胞は、再び、活動を再開し、遊走や増殖を始めた。細胞の生死判定試薬をもちいても、この因子の作用で遊走と増殖を止めた細胞は生きていることもわかっている。これらの結果から、この抑制性因子は、新奇の生理活性物質である可能性が非常に高い。
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