我々はこれまで、細胞内情報伝達反応を1分子レベルで検出して、その反応機構を解析することができる細胞内1分子計測法を確立してきた(Sako et al. 2000)。本研究ではさらに、細胞内1分子計測法を細胞の走化性応答の研究へと応用するために、実験系の開発を行った。特に、走化性の情報伝達初期過程を1分子レベルで解明できる実験系の開発を目指した。細胞性粘菌Dictyostelium はcyclic AMPに対して走化性を示すことが知られている。そこで本研究では、cyclic AMPの蛍光アナログを新規に合成し、細胞内1分子計測法を応用した。その結果、蛍光性誘引物質アナログの細胞への結合を1分子レベルで可視化することに成功し、細胞に結合した誘引物質の数の時間変化や、空間的なパターンの変化をリアルタイムで計測することが可能になった。これまでに、走化性刺激の勾配に応じて細胞内の情報伝達反応に勾配が生じていることを示唆する知見が得られている。今後、この実験系に3量体GTP結合蛋白質の活性化の1分子計測法を導入する予定である。走化性の情報伝達初期過程における入力(誘引物質の細胞への結合)と出力(GTP結合蛋白質の活性化)を同時に1分子計測できる実験系に発展させたい。本研究で得られる成果は、細胞性粘菌における濃度勾配の認識メカニズムを理解する上で重要であるだけでなく、神経回路形成、発生、免役などにおける走化性応答を理解する上でも重要であろう。
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