個体発生の初期に展開する神経回路網形成の分子機構を解明するために、機能分子の探索と解析の研究を進めている。神経軸索先端にあって特殊な構造した神経成長円錐を研究材料とした。蔗糖密度勾配遠心法により成長円錐濃縮分画を調製した。この成長円錐を構成している膜蛋白をイオン交換クロマトグラフィー、HPLCを用いて系統的に分離精製した。精製した蛋白の部分アミノ酸配列およびcDNAクローニングを行いデーターベースを検索した。新規蛋白については抗体を作製し、脳の発達時期、部位別の蛋白発現とmRNAの変動を観察した。その結果、神経回形成期にのみ出現し、軸索の伸長、誘導、標的神経細胞の認識に関り、シナプス形成が完成すると共に消失する蛋白の中から新しい膜蛋白(gmp46と命名)をみつけた。gmp46の成長円錐における分子・細胞レベルでの機能解析を行なうと共に、本研究課題「mRNAの軸索輸送と神経成長円錐での蛋白合成」に適する蛋白であるかを詳細に検討した。 1)gmp46は発達期の神経系に優先的(ほぼ特異的)に発現している。2)gmp46は神経系では今までに報告されていないイムノグロブリンスーパーファミリーに属する1回膜貫通型膜蛋白であった。3)初年度には、生体脳をより反映できる実験系の確立に向けて、軸索と樹状突起を識別できる初代培養細胞系(G.Bankerの方法)に成功した。この系を用いてマウス胎児海馬の神経細胞を培養した。gmp46の細胞内・外ドメインを認識する抗体、およびMAP2蛋白、PSD95に対する抗体での免疫組織化学の結果、mp46は神経成長円錐を含め神経細胞全体に分布していた。4)gmp46がシナプス形成の場に存在していた。これらのことから、gmp46が蛋白合成、移動、シナプスへの集積とgmp46mRNAの軸索移動について、本研究に適した蛋白であることが判った。神経成長円錐が超微量のため新しい実験・解析系を組み立てているところである。
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