研究概要 |
高分子材料の機能構造設計を行うためには,高分子の構造や官能基の反応性を電子密度分布や双極子モーメント,分子軌道の見地から知る必要が有る. そこで,手始めに高分子の構造を分子レベルから分析する方法の開発に取り組んだ. 高分子(ポリウレタン)に慢性的に荷重をかけて伸張して分析用試料とした. 固相の高分子を有機溶媒に溶解することなく観察するために,小角X散乱法を用いた実験を行い,その結果にフラクタル次元解析を実施した.すると,ある分子量(移行帯)より大きな分子は格子間隔の拡張する方向に変化し,逆に低級分子は格子間隔が縮小する方向に変化を起こした.さらに,一年以上の長期にわたり山羊の人工心臓に使用したJellyfish弁では,ポリウレタンの粘弾性効果によるゆっくりとした変形現象がみられ,移行帯がより高分子領域まで上昇していた.この理由は,次のように考えられた. 分子鎖の短い高分子は,他の高分子との絡み合いも少なく外部からの荷重に対して移動しやすく,他方,鎖の長い高分子は外部からの荷重にたいしてよく耐える,このために,移動しやすい短鎖高分子は外圧に対してつぶれやすく,結果として格子間隔が短くなる.逆に長鎖高分子は移動しにくいために短鎖高分子がい移動した分だけ格子間隔が広がって観察される.そこで,次年度は分子計算による実験結果の再現を行いたい.
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