いままで「封建・郡県」論あるいは「聯邦論」をそれぞれ分析した研究は存在するが、「封建一郡県」論を手がかりに、当時日中の議論を関連付けさせつつ「聯邦論」をめぐる大正・民国期の政治思想交流の側面に着目し、激動の時代状況における知識人の思想と活動を描写する研究はほとんどない。 本研究は、近代国家の建設を緊急課題とする世紀転換期において、「封建・郡県」という東アジアの伝統的概念が近代日中の「聯邦論」にいかに発展し、内藤湖南・吉野作造・橘撲、孫文・梁啓超・章炳麟など同時代の日中の代表的な知識人が、いかに歴史像を再構築することによって国家体制のあるべき姿および変革の方法論を提示したのかという問題に焦点を絞り、大正期における日中の思想的連鎖の一側面を明らかにすることを目指す。 学振採用期間中は地元の記念館や資料館を見て回り、関連する資料の収集に取り組み、取り上げられる対象の残した文献類を主な素材として思想史的テキスト分析を中心に考察を行なった。と同時に、彼らの歴史認識の背景となる思想家の議論、その他の同時代の人士の議論にも目を配って包括的に研究してきた。既出の全集・選集に収録されていない文章を含め、研究課題と関連する主要な新聞・雑誌に目を通し、できるかぎりの資料調査をしてきた。加えて、研究するにあたり、関連分野の内外の研究者と交流しつつ、研究成果の報告を行なうことで、自身の視野拡大と研究精度の向上を図った。
|